広がる小規模音楽会 感染予防策を講じて開催

来場者の前で演奏を披露するPOEのメンバー=長崎市南山手町、グラバー園

 新型コロナウイルス感染拡大による影響で、大規模なホールコンサートなどが開けない状況が続く中、長崎市内では感染予防策を講じた小規模な音楽会を開く動きが広がっている。演奏家の思いや展望を取材した。
 夕暮れのグラバー園(同市南山手町)にオーボエのやわらかい音色が響く。8月29日、屋外に設けられたステージでビートルズのナンバーなどを披露したのは、同市の木管アンサンブル「POE(ポエ)」。会場にはマスク姿の約50人が密接しないように並べられた椅子に座り、足でリズムを取るなどして生演奏を楽しんだ。

 ◆マスク越しに
 ポエはコロナ禍でコンサートの出演中止が相次ぎ、今回が今年初めてのステージ。演奏を終えたメンバーの市原隆靖さん(50)は「お客さんが曲を聴いて喜んでくれているのが、マスク越しでも伝わってきた。演奏する私たちもテンションが上がった」と笑顔で話した。
 音楽会は同市が本年度取り組む「長崎文化時間の創出事業」の一環。コロナ禍で活動の機会が減った文化団体や演奏家らを支援することなどが目的だ。8月22日~今月19日まで毎週土曜に開き、本県のポップスやオペラ、クラシック演奏家らが出演。感染防止策として3密(密閉・密集・密接)が生じないよう同園の屋外を会場に、来場者にマスク着用や手の消毒などを促すなどしている。ポエのメンバーで県音楽連盟運営委員長の堀内伊吹長崎大教授(67)は「長崎は音楽が似合う観光地がたくさんある。そうした場所で音楽会を開くことで観光振興との相乗効果も図れるのではないか」と語る。

 ◆根付かせたい

 小規模音楽会を開いているのは行政だけではない。長崎ギター音楽院(同市元船町)の山下光鶴(てるかく)院長(26)は「長崎小さな音楽会プロジェクト」を今夏発足。県内各地で継続的に音楽会を開き、市民が気軽に生演奏を楽しむ場の創出を目指している。
 8月30日に同院で開かれた音楽会では、国際的なギタリストである山下院長が英国や南米の音楽をクラシックギターで独奏。美しい調べが集まった約10人を魅了した。同市の主婦、岡村京子さん(38)は「心が豊かになる時間が過ごせた。ギターを習ってみたくなった」。山下院長は「海外では普段の生活の中で楽器を奏でたり、生演奏を聴いたりする場がたくさんある。コロナ禍をきっかけに長崎にもそうした文化を根付かせたい」と意欲を語る。

 ◆ネットで配信

 課題もある。「小規模でも音楽会が開けるようになったのは喜ばしいが、プロの演奏家が十分な収入を得るにはまだ難しい」。同連盟の河野英雄理事長(76)はそう語る。
 動画配信サイト「ユーチューブ」で本県の歌手やアイドルグループの活動支援などを手掛ける「やるか株式会社」(同市)の本多大剛代表(44)は、「今後は音楽会をネットで生配信し、視聴料を得る方式が普及していくだろう」と予測。「金額に見合った内容を提供するために、演奏者側は視聴者のリクエストにリアルタイムで応えるなど、普通のコンサートにない付加価値を高める必要があるのではないか」と話す。

クラシックギターの独奏を披露する山下院長=長崎市元船町、長崎ギター音楽院

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