“平均寿命が過去最高”でも長生きが怖い…加齢や病気に対して、不安や嫌悪感が増している?

7月末に厚生労働省から「2019 年簡易生命表」が公表され、平均寿命が男性81.41歳、女性87.45歳と、過去最高を更新したことがわかりました。しかし、このことを不安に感じる人の方が多いようです。平均寿命が延びても、「健康で生きている期間」が延びなくては、ありがた味がないというものです。高齢期における生活や、健康状態への不安は大きく、健康で生活できる期間を長くすることが人々の願いとなっています。

「健康寿命」は、最近よく聞かれる言葉です。国では、健康寿命を「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」と定義して政策を行っていることから、ここでも同じ定義を使って健康寿命の現状について紹介したいと思います。


2019年健康寿命は、平均寿命以上の延び

国の公表資料によると、2016年の健康寿命は、男性が72.14年、女性が74.79年でした。そこで、2019年時点の健康寿命を、2016年の算出方法に倣って、筆者が計算してみたところ、男性が72.68年、女性が75.38年となりました 。この3年間で男性が+0.54年、女性が+0.59年延びた計算となります。

この間の平均寿命の延びは、男性が+0.43年、女性が+0.31年だったので、健康寿命の延びは、男女とも同じ期間の平均寿命の延びを、わずかに上回りました。平均寿命と健康寿命の差(健康上の問題で日常生活に制限がある期間)は、おおむね横ばいで推移していますが、どちらかと言えば短縮傾向にあるようです。その要因の1つに、厚生労働省が定期的に行っているアンケート調査で「あなたは現在、健康上の問題で日常生活に何か影響がありますか」という設問の結果が、高齢期に改善していることがあげられます。

国の目標は2040年までに+3年、75年以上

「健康寿命」は、安倍政権における2013年の日本再興戦略で「健康寿命の延伸」が目標として掲げられたことで、広く注目されるようになりました。

当初は、2020年までに2010年の数値(男性70.4年/女性73.62年)を1年以上延伸することを目標としていましたが、この目標は2016年に既にクリアしています。骨太方針2019においても、健康寿命の延伸は目標として掲げられており、2040年までに2016年の数値から+3年以上延伸し、男女とも75歳以上とすることとしています。この目標に向けて、糖尿病等の生活習慣病の重症化予防、認知症の様態に応じたサポート体制の充実、がんの早期発見と治療と就労の両立に向けたサポート体制など、幅広い分野での取り組みが進められています。

加齢や健康上の問題があっても、制限なく日常生活を送ることができる社会の構築も重要

「日常生活に制限」をもたらす懸念のある要因を取り除き、平均寿命を上回る健康寿命の延伸を実現するための各種政策は、個人のQOL(生活の質)向上のためにも、高齢化がますます進む日本における成長戦略としても重要なことだと思われます。

一方で、目標どおり2040年までに健康寿命が+3年延伸されたとしても、国立社会保障・人口問題研究所の推計(平成29年中位推計)では、この間に平均寿命は男性2.41年、女性2.49年延伸すると予測していることから、これらがすべて実現したとして、「日常生活に制限がある期間」の改善は2040年までに0.5年程度にとどまります。

すなわち、どれだけ健康寿命が延びても、加齢や病気、体調不良は避けようがなく、日常生活に影響がある期間は一定期間生じると考えられ、その期間は一生を通じて男性で9年弱、女性で12年弱となっています。今、政策で掲げられているような健康悪化の早期発見や予防、効果的な治療を行う仕組みづくりによって健康で生きられる期間が伸びることは理想的でしょう。

しかし、健康増進政策が進むほど、加齢や病気に対して、不安や嫌悪感が増している懸念があるのではないか、と筆者は考えています。加齢や健康上の問題があっても、制限なく日常生活を送ることができる社会を構築することで、加齢や病気に対する過度な不安を取り除くことも大切なのではないでしょうか。

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