長崎くんち“開幕” にじむ寂しさ 来年へ思い 奉納踊り中止、神事だけ

参拝のため長坂を登る井村さん(中央)ら=長崎市、諏訪神社

 新型コロナウイルスの影響で奉納踊りなどが中止となり、神事だけとなった諏訪神社(長崎市上西山町)の秋の大祭「長崎くんち」が7日、“開幕”した。380年以上の歴史を誇り、例年だと各踊町の演(だ)し物や「モッテコーイ」などの掛け声で沸く長崎の伝統行事も、今年は打って変わって静かな前日(まえび)となった。「来年は、ますますいいおくんちを」-。関係者や長年のくんちファンらは寂しさをにじませながらも、来年への思いを新たにした。

 昨年の開幕日、桟敷席や長坂が約2500人の観客らで埋まった同神社。神職らが例大祭(8日)の前後に執り行う「寿詞神事」に臨んだ。
 午前中、立山1丁目自治会長の井村啓造さん(74)ら有志約20人が参拝。今年のくんちへの思いを形に残そうと作った手ぬぐいを手に長坂を登り、コロナ収束を願い拝殿で玉串をささげた。立山地区はくんちでみこしを担ぐ神輿守町(みこしもりちょう)。井村さんは「来年、ますますいいおくんちになるように、という思いを届けられたかな」とほほ笑んだ。
 同神社では、元長崎学研究所長の土肥原弘久さん(62)がくんちについて講話し、これまで疫病などで中止や延期となった歴史、お旅所の設置場所の変遷などを紹介した。国の重要無形民俗文化財に指定されている奉納踊りの中止は、昭和天皇の容体悪化で取りやめた1988年以来。一般参拝客からは「奉納踊りがないと分かっていても、いても立ってもいられなくて来た」と寂しげな声も聞かれた。
 今年の踊町6カ町の奉納踊りは来年に延期される。その一つ、「万屋町」では来年への士気を高めようと、例年、くんちの時期に玄関先や店先に飾る家紋入りの「幔幕(まんまく)」が今年もお目見えした。総監督として出演予定だった池上淳一さん(51)は「コロナ禍でも何かしたいと青年会が発案した。1年延期になった分、いい奉納踊りをすることが目標」と決意を新たにしていた。
 一方、ファンも来年への期待を口にした。例年、仕事を休んで見に行っているという上小島3丁目の会社員、隅田弘子さん(56)は「稽古を重ねて出演者が成長していく様子や、終わった後の達成感がくんちの魅力。これからもずっと応援し続けたい」と話した。

例年は桟敷席や長坂が観客で埋まる諏訪神社境内も、打って変わって静かな朝を迎えた=午前5時38分、長崎市、同神社
静かに“開幕”。出演予定だった踊町では、例年、くんちの時期に店先などに飾っている家紋入りの「幔幕(まんまく)」が今年もお目見え。関係者やファンらは来年への思いを新たにした

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