横断歩道「車は止まれ」 神奈川県警、歩行者優先ルール浸透へ

信号機のない横断歩道で、歩行者がいるにもかかわらず一時停止せずに通行する乗用車=横浜市内(画像の一部を修整しています)

 神奈川県警が横断歩道上の歩行者保護に力を入れている。横断歩道を渡ろうとする人がいるにもかかわらず、一時停止しない車両に対し、道交法違反の横断歩行者妨害を積極的に適用。今年9月末の摘発数は1万7千件を超え、過去最多だった昨年(1万5148件)をすでに上回った。背景には、横断歩行者妨害に起因する事故の死傷者が県内で年間1500人を超す深刻な実態がある。県警は「横断歩道での歩行者優先はルール。浸透させるために必要な取り締まりを続ける」としている。

◆右肩上がりの摘発数 毎月2千件ペース
 県警によると、横断歩行者妨害の摘発は今年9月末で1万7868件。毎月2千件のペースで摘発した計算になる。ここ数年、右肩上がりで増加しており、今年はすでに2015年(7831件)比で2.2倍となった。

 県内で昨年、歩行者側に交通違反がないにもかかわらず、横断歩道上で車両にはねられて死亡した人は12人。負傷者を含めると1556人が横断歩行者妨害に起因する事故で死傷した。同様の事故形態による死傷者は過去5年、年間1500~1700人台で推移。県警は「横断歩道上は歩行者が優先という当然のルールを守れば、防げた可能性の高い事故」とみる。

 日本自動車連盟(JAF)が昨夏に行った全国調査によると、歩行者の「聖域」であるはずの信号機のない横断歩道における車の一時停止率は全国平均で17.1%にとどまった。神奈川は全国平均より高い22.7%だったが、それでも法令を順守したのは4台に1台程度という低水準だった。

 JAFの別の調査では、一時停止しない理由として▽対向車も停止しなければ歩行者が危ない▽自分の車が通り過ぎれば渡れる│などの回答が目立った。

 日本では欧米に比べ、横断歩道上の歩行者保護の意識が希薄だと専門家は指摘する。国内外の交通事情に詳しい立正大の所正文教授(産業・組織心理学)は「歩道のない道路が多数存在するなど、日本は自動車優先主義が顕著で、交通弱者の歩行者が道を譲るという心理構造が根強くある」と解説。横断歩行者妨害の取り締まりを徹底する観点で、交差点などへの監視カメラ増設の必要性を説く。

 さらに、主にキリスト教文化圏の欧米では博愛主義が交通行動にも表れるとし、「欧米ではStop(止まれ)でなく、Give way(相手に道を譲れ)が基本。日本に比べ、横断歩道での歩行者優先が浸透している」と説明。多くの訪日客が見込まれる来夏の東京五輪・パラリンピックを念頭に「取り締まりや啓発を通じて、Give wayの基本を国内で定着させることが大切」としている。

 ◆横断歩行者妨害 道交法38条に規定。車両は横断歩道を横断、または横断しようとしている歩行者がいる場合、一時停止して歩行者の通行を妨げないようにしないといけない。違反した場合、反則金は6千~1万2千円、点数は2点で、3月以下の懲役または5万円以下の罰金が科せられる場合もある。全国の警察の摘発件数も2019年は22万9395件で過去最多となった。

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