「トヨタ・MIRAI」6年ぶりの新型、 進化した“近未来水素カー”の全貌は?

2014年、世界初の量産セダン型の燃料電池自動車(FCV)として登場したMIRAI(以下、ミライ)。それから6年の時を経て登場する2代目ミライは“普通に使えるFCV”を目指して数多くの改良が施されています。今回はいち早く触れることが出来たミライのプロトタイプのレポートです。


電動車の種類をおさらい

電動車とひとくくりにされますが、色々なタイプがあります。少し整理すると、まずはエンジンとモーターを積んだハイブリッド(HV)があります。そしてそのHVの中で、外部電力から充電できるタイプをプラグインハイブリッド(PHEV・PHV)と言います。このハイブリッドにも、最近では発電用の小排気量エンジンを搭載した「レンジエクステンダー」というシステムを搭載したクルマの開発や市販化も進んでいます。日産のノートがその例です。

次に電気自動車(EV)ですが、まず一般的にはピュアEVと呼ばれているbattery electric vehicle(BEV)があります。外部電力で充電したバッテリーを動力源としたEVのことです。

対して水素カーなどと呼ばれる燃料電池車はFuel Cell Vehicle(FCV)といわれます。水素と酸素が反応し、水に変化する過程で発生する電気を使ってモーターを回し、走行するEVですが、もちろん外部電力で充電する必要はありません。FCVはエンジン車がガソリンスタンドで燃料を補給するように、水素ステーションで燃料となる水素を短時間で補給しながら走ります。もちろん走行時に発生するのは水蒸気のみで、大気汚染の原因となる二酸化炭素(CO2)や窒素酸化物(NOx)、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、浮遊粒子状物質(PM)は排出されません。

少しばかりゴチャゴチャとしてきましたが、こうした電動車全体を価格面で俯瞰してみるとHVがもっとリーズナブルで、つぎにPHEV、BEV、そしてFCVといった順で高価になっていくのです。こうした傾向は色々な要因が絡み合っての結果ですが、とくに生産台数が増え、量産効果が出てくれば、その差は小さくなっていきます。

つまり、もっとも普及台数の少ないFCVが巷に増えていけば、価格面でもさらに購入しやすくなるわけです。環境問題を考えれば、走行中に水しか排出せず、火力発電での電力で充電もしないFCVが少しでも普及することが重要です。そのためにトヨタはミライの普及率を上げるべく、“普通にすること”を考えたそうです。そして、その答えを2代目ミライで表現したといいます。

「ミライ」の全貌

ミライは、普通になることを、まずスタイルで表現しました。昨年の東京モーターショーですでに「MIRAI Concept」として発表されていましたから、覚えている方も多いと思います。そのスタイルは少々ぼってりとした初代とは、方向性が違ったスタイリッシュなサルーンという佇まいです。

流麗という表現を使えば、間違いではありませんが、一方で初代にあった“特別感”は希薄になりました。初代はカッコいいかどうかは別としても、目立ち度はかなり高く「ミライに乗っているんだ」という特別感のあるスタイルで、けっこう街の中では目立っていたのです。

一方でミライ・コンセプトのプロポーションは、なんともスッキリとしたスポーティなスタイルなのです。サイドからのフォルムはクラウンやカムリといったトヨタのプレミアムサルーンの流れの中にあります。

「かたまり感」のあるリアスタイルは安定感を感じさせます

そのボディの大きさですが全長4975mm、全幅1885mm、全高1470mm、そしてホイールベースは140mm伸びて2920mmとなっていますから、旧型より、すべてのサイズでひとまわり以上の拡大となっています。こうしたサイズの拡大や延長の一因には、3個の水素タンクを搭載するため、という理由があったそうです。つまり水素の搭載量を増やせば、1回の水素充填での走行距離が伸びるわけですから、当然、新世代のミライは考慮すべきポイントになります。

黄色の太い水素タンクがキッチリとフロア下に納められています

こうして出来上がったミライ・コンセプトのプロポーションですが、全長と全幅でクラウンよりも少し大きくなりました。ちなみに全高は15mm高く(2WD比で)、ホイールベースは同じです。このサイズ感でみると、まさにトヨタの最上級のオーナーカーといいたげな堂々たる佇まいとなります。

ここにミライが狙っている“普通になる”という意味があるようです。フロントマスクのデザインもあるのですが、切れ長のヘッドライトを備えたフロントマスクは低く構えた印象。そしてワイドなボディが安定感のあるキャラクターを完成させています。さらに前後のバンパーにはわずかですが旧型ミライの面影を感じさせるデザイン要素を残しているあたりは、初代に続き新型の開発責任者を務めた田中義和主査による「技術の伝承」という主張を感じました。

そんなスタイルを見ながら乗り込んでみました。リアシートの足元が少しばかり狭いかなぁ、と感じましたがストレスになるほどではありません。確かにリアシートやトランクの下、そしてセンターコンソールの下などに大きな3本の水素貯蔵タンクが配されるというFCVならではレイアウトが影響しているのでしょうが、かなり巧みに搭載されていることで、窮屈などと言うことありませんでした。当然、ショーファーカーとしてもちゃんと使えます。

「ミライ」は走りだけじゃない

ただ個人的に言えば、このクルマはスポーツサルーンとして楽しむ方を選択したくなりました。実はテストでミライ・コンセプトを走らせたのは富士スピードウェイのショートコースです。発表前ですから一般道では当然無理ですが、目いっぱいアクセルを踏み込んでプレミアムスポーツサルーンとしての実力を試して下さい、というワケです。正直にいうとサーキットの路面は均一でグリップもいいため、ごく普通の使い勝手やフィーリングを試すには不向きなのです。

スポーツ走行でもしっかりと体をサポートするフロントシート

一方、限界を試すには好ましく、クローズドですからテスターもガンガン、頑張って走ることができるのです。それほどスキルの高くない私でも、速度などを気にすることなく走りを楽しむことができたのです。

水素タンクなどの重量物を前輪と後輪の間に配置することで、前後50:50の理想的な重量配分を実現していますし、高剛性ボディはなんともガッチリとしていて、気持ちのいい直進安定性と操縦安定性が味わえました。そしてステアリングのフィーリングはヨーロッパのスポーツサルーンといった感じで、なんとも楽しいひとときだったのです。

こうしてごく普通のスポーティサルーンとして楽しむ以外に、ミライのFCスタックで発電した電気を供給する外部給電機能も備えています。つまりオートキャンプなどのレジャーだけでなく、災害時などでは車内のAC100V(1500W)コンセントを使えば、一般家庭で400Wを消費すると考えると約4日間分の電力をまかなえます。

ボンネットを開けるとFCVの発電装置「FCスタック」があります

さらに少し大型にはなりますがDC外部給電システムを使うことで最大DC 9kWの大容量給電も可能となります。排気ガスを出さないFCVならではのクリーンな電力を作り出せるという強みもあるのです。

新型ミライの航続距離はWLTCモードで850kmを達成しています。そしてその生産能力は一気に月3000台へと引き上げられました。これまでの約10倍だそうです。価格は未発表ですが初代の723万円以内、補助金を使ってクラウン・ハイブリッドの中位モデルぐらいに収まってくれると、なんとなく現実味が出てくるのですが、どうなるでしょうか?

経済産業省の「水素・燃料電池戦略ロードマップ」ではFCVのシステムコストを引き下げるなどして2025年までにFCVとHVの価格差を、現在の300万円から70万円に抑えたいとあります。結果としてFCVを2025年に20万台、2030年に80万台に増やすというのです。そのためにも、間もなく正式デビューする2代目ミライには、大きな期待が寄せられているのです。

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