給料は変わらないはずなのに手取りが下がった…健康保険料、厚生年金保険料、チェックすべき給料明細

振り込まれた給料が、先月より大きく減っている! 残業時間は先月と変わっていないのになぜ?と思われた方があるのではないでしょうか。その理由は、社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料)が変わったことが原因の可能性が大です。

社会保険料は、給料の額に連動して上下しますが、その計算は原則年1回しか行われません。つまり残業時間が毎月大きく変動するとしても、1回決まった保険料は1年間同じです。その変更時期が毎年9月分の社会保険料からとなっているのです。

今回は社会保険料の計算と、給料明細のチェックポイントをお伝えします。


社会保険料は4・5・6月の給料で決まる!

健康保険料(40歳以上の人は介護保険料含む)と厚生年金保険料は、毎年4・5・6月の給料の総支給額合計を3で割った平均額で決まります。

総支給額なので、基本給だけでなく、役職手当や扶養手当、通勤手当や時間外手当なども含んだ総額が計算の基になります。4・5・6月に支給した総支給額の平均額を届け出るのであって、いつ働いた分なのかは関係ありません。この届け出のことを「算定基礎届」といいます。

例えば、勤務日数や勤務時間、残業時間などの勤怠の締め切りは毎月15日で、給料の支給日が同じ月の25日の会社なら「当月支払い」となり、実際は3月16日~4月15日の労働をもとに計算した給料が4月25日に支給されます。

もし勤怠の締め切りが末日で、給料の支給が翌月15日でなら「翌月支払い」となり、3月1日~3月31日の労働をもとに計算された給料が4月15日に支給されるのです。

このように、当月に働いた実績で計算する会社もあれば、前月に働いた実績で計算するという会社もあります。残業代や休日出勤などの「時間外手当」も含んだ総支給額の平均なので、社会保険料を抑えようとすれば、対象期間になるべく残業しないでおくことも可能かもしれません。

自分の会社の勤怠の締切日と支給日のサイクルを知っておくことは、社会保険料の面からも大切です。

給与明細のチェックポイント

次に、給与明細と社会保険料の関係をご説明します。

以下の給与明細は、東京都協会けんぽに加入、報酬月額36万円、40歳以上の人の例です。(表:筆者作成)

このように、給与明細には必ず基本給や各種手当を合計した、総支給額が記載されています。毎年4・5・6月の総支給額を足して3で割った平均額が「報酬月額」となります。
例えば、
4月に払われた給料の総支給額:38万5,302円
5月に払われた給料の総支給額:38万2,505円
6月に払われた給料の総支給額:37万8,397円なら、38万5,202円+38万2,505円+37万8,397円=1,14万6,204円

1,14万6,204円÷3=38万2,068円で、38万2,068円が報酬月額となります。

報酬月額から表を使って「標準報酬等級」と「標準報酬月額」を割り出します。
参照:全国健康保険協会

この表から、報酬月額38万2,068円は37万円以上39万5,000未満の範囲に入るので、健康保険26等級、厚生年金保険23等級、標準報酬月額は38万円となります。現在標準報酬月額が36万円だったのであれば、算定基礎届後は38万円にアップします。

先ほどの給与明細の例の人なら、標準報酬月額が38万円に変わったあとは、健康保険料は1万8,753円(987円増)、介護保険料は3,401円(179円増)、厚生年金保険料は3万4,770円(1,830円増)になり、毎月2,996円社会保険料の負担が増えます。

決まった等級が1年間変わらない!

毎年4・5・6月に支給された給料の総支給額の平均で「標準報酬月額」が決まります。その決まった標準報酬月額に変更されるのは原則9月1日で、9月分の健康保険料、厚生年金保険料から新しい保険料で給料から天引きされることになります。

算定基礎届は毎年1回だけ行われるため、9月分からの保険料が翌年の8月分まで変わりません。

7月以降残業や休日出勤がなくなって、総支給額が減ったとしても、翌年の算定基礎届の提出まで基本的には会社が届け出をすることはないので、実際に総支給額に比べて高い保険料で天引きされるのです。

では実際に社会保険料が変わるのはいつからかというと、それは会社によって異なります。社会保険料の納付期限は翌月末日です。つまり、9月分の社会保険料は10月末日が納付期限となっています。会社は毎月翌月末日までに前月分の社会保険料を払っています。

被保険者ごとで考えると、先ほどの勤怠の締切日と給料の支給日が関係してきます。一般的には、当月支払いの会社であれば9月支給の給料から翌年8月支給の給料までの保険料額となるし、翌月支払いの会社であれば10月支給の給料から翌年9月支給の給料までの保険料額となります。

当月支払いなのか翌月支払いなのかは、会社によって変わります。自分の会社の勤怠の締切日と給与支給日の関係を知っておかないと、社会保険料がいつの給料から変更になるのか、もし退職するとなったら最後の給料で何カ月分の社会保険料を払うことになるのかわからないことになります。

2020年9月から厚生年金保険の上限額が上がった!

標準報酬月額の変更は毎年9月分の社会保険料からですが、それに加えて2020年からは厚生年金のみ標準報酬月額の上限が1等級増えて、32等級65万円ができました。

今年はその影響もあるので、報酬月額が63万5,000円以上の人は、算定基礎届によって標準報酬月額が上がった影響に加えて、さらに厚生年金保険料が増えて手取りが減ってしまったことになっているでしょう。

2020年8月分までは報酬月額が60万5,000円以上なら、報酬月額がいくらであっても31等級62万円で厚生年金保険料の個人負担は5万6,730円でした。

それが2020年9月分からは、報酬月額が63万5,000円以上の人は標準報酬月額が65万円となり、厚生年金の保険料の個人負担が5万9,475円になります。月々の負担は2,745円増加します。

厚生年金は老後の生活費となる老齢厚生年金や、遺族への収入保障となる遺族厚生年金、障害を負ったときの収入補填となる障害厚生年金の額と連動しています。

単純には、厚生年金加入期間中の賞与も含む「平均標準報酬額」と加入月数の掛け算になるので、加入月数が同じであれば平均報酬が多い方が計算される年金は大きくなります。

厚生年金の標準報酬月額の下限と上限が健康保険に比べてある程度幅が狭くなっているのは、最低等級と最高等級にあまりに差があると、長年受給し続ける可能性のある年金に、大きな差があることを避けるためと思われます。

世の中の報酬が上がっていくと今回のように上限額の引き上げが行われます。該当する人は多くないかもしれませんが、実際に対象となった人にすればなぜ高額所得者だけと思うかもしれません。

しかし、これは標準報酬月額の上限は全加入者の平均標準報酬月額の2倍を目途にしており、継続して下回る場合は引き上げるというルールに従った措置で、このようなしくみになっていることは、知っておく必要があると思います。


給料は、口座にいくら振り込まれたかしか関心がなく、給与明細を見ないという人が多くいます。また社会保険料の計算や手続きは、会社がすべて行ってくれているので、社会保険料の計算方法を全く知らないという人も多いのが実情です。

しかし、社会保険料は「保険」である以上、標準報酬月額によって補償の額が変わるので、自分や家族の所得補償や、老後の暮らしに大きく関係します。無関心でいるのはとても危険です。

給与明細を毎月ちゃんと確認しよう、社会保険料の計算の仕方をさらに深く知ろうと感じて頂けること願っています。

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