資産100億・不動産投資家「17行以上の金融機関と付き合ってわかったこと」

不動産を買うにあたり、大きな壁となるのが資金調達です。金融機関の融資が受けやすくなる方法について、前回前々回に引き続き、資産100億円投資家の玉川陽介さんに聞きました。


融資が出る条件をリサーチ

**――資産100億円、物件数30を超える規模になると、融資を受ける金融機関の数も必然的に増えますね。

そうですね。現在は17以上の金融機関と付き合いがあります。金融機関によって融資する条件などが微妙に異なりますので、そのあたりのリサーチは重要だと思っています。とくに私の場合は「融資が出る」ことを前提に物件を探します。融資状況は金融業界全体の動向に影響を受けますので、例えば、ニッキンなど金融機関向けの雑誌で情報を集めたり、日銀、金融庁、金融市場全体や海外の動向もチェックするようにしています。

また、昨今は金融機関全体として融資が出にくくなっているため、金融機関ごとに融資が出る物件のスペックなどを細かく聞いて、その条件を満たしている物件を探すことが重要なポイントになっています。

――融資が出る物件の条件を金融機関に聞くのですか。

はい。不動産投資を始める人の多くは、良さそうな物件を見つけ、金融機関に持ち込み、融資が出なかったら諦めます。しかし、投資家としては、もう少しできることがありますよね。普通の仕事でも同じです。営業先で断られたら何がだめだったのか、どうすれば買ってもらえるかなど聞くと思います。
金融機関も同じで、今回はだめだとしても次にどうすれば融資してもらえるかを聞くことが重要です。

――先に融資の条件を明らかにするのですね。

はい。自分が「良さそうだ」「買いたい」と思う物件を持ち込んでも融資は出ません。闇雲に矢を打っても当たりませんので、まずは「融資が出る物件の条件」という的(まと)の位置を探ります。融資が出なければ買えませんので、最終的には金融機関が物件を選定しているようなものですね。

金融機関特有のロジックを理解する

――金融機関との付き合い方で気をつけていることはありますか。

形式審査に落ちないようにするという点では、細かなことですが、物件や借入金の状況などはきちんと管理しておくことが大事です。私は自分で資産管理の開示資料を作っていて、「こんなによく整理された資料は初めて見た」と金融機関の人によく驚かれます。小さな会社が会計の透明性をアピールすることは簡単ではありませんが、整然と整理された資料の中にそれを見いだしてもらえることもあろうかと思います。

また、私は地域の信用金庫から借りることが多いため、地域に根ざして大家業を営んでいると伝えることも大事だと思います。信金は地域から預かったお金を地域の発展のために貸し出す立場です。その点を踏まえて、地域に向けて快適な住居を提供する、住居インフラの管理者として仕事をしているという意識を持ち、金融機関にもそれを理解してもらうことが大事だと思います。

――属性以外の面で、融資で不利、有利になる条件はありますか。

日本の金融機関のシステムは一般の人には理解できない特殊な理屈で動いているように感じます。たとえば、売上げや資産の集中や偏りは金融市場の考え方でいえばリスク要因ですが、金融機関でそれが審査されることはほぼありません。資産のすべてが池袋のマンションでも集中が過度で危険といわれることはありません。むしろ、地域内ですべて完結しているほうが地域金融機関には好かれるかもしれません。この点は逆に活用させて頂き、堂々と事業を集中させたらよいと思います。

――金融機関特有の判断基準があるのですね。

そう感じます。それは時に不合理で、民間感覚では理解できないおかしなルールのため被害を被ることも多いのですが、逆に普通の感覚では理解できない勢いのいい貸し方をすることもあります。本音をいえば、フルローンを出すくらいならば銀行が自分で買った方がいいのではと思いますが、そこはチャンスとしておかしな点の恩恵にあずかればいいと思います。ほかにも、「競合の金融機関が貸しているならうちも貸そう」のような横並び意識には合理性はないと思いますが、いまだにこの力は働いているように感じます。そのため、多くの金融機関と取引して地域の輪を広げることには一定の意味があります。

つながりを作って新規開拓

――新たな金融機関とのつながりはどのように開拓しているのですか。

以前は銀行などの融資窓口を訪ねていましたが、ドアノックで正面から入って融資が出たことはほぼありません。そのため、知り合いなどを通じて紹介してもらうことが多いですね。金融機関は紹介者を気にしますし、融資審査の稟議書にも紹介者を書く欄があります。例えば、会社に営業にくる生命保険の担当者などが地域の金融機関と提携していることがあります。そういう接点から金融機関の融資担当者や支店長を紹介してもらいます。紹介とは少し違いますが、ある銀行の支店で資産運用のセミナー講師の依頼を受けたことがきっかけになりその銀行から借り入れができたこともありました。

――小さな縁を大事にしながら地道に開拓していくものなのですね。

地道ですし時間もかかります。

きっかけを作るという点では、新たに取引を始めるために区分マンションを買うこともあります。

一般的に、金融機関の付き合いとしてよくあるのは、金利がほぼ付かない定期預金や積み立てなどですが、融資を受けること自体が「お付き合い」であることすらあります。支店の近くの小規模区分マンションなど、融資審査が楽に済む物件をあえて持っていって口座を作り関係性を構築します。そのような区分を買えば私は赤字ですが、返済実績が増えて、次に大きな融資を受けたい時に話を持っていくことができます。本来は融資を拡大したい金融機関の営業担当がすべき努力だと思いますが、そこでは役割分担をいったん忘れて、あえて低いボールを投げて拾ってもらうのもいいでしょう。金融機関とのリレーションシップに対する先行投資ともいえます。

私は基本的には一棟ものを買いますが、ポートフォリオの中にいくつか区分マンションがあるのは、そういう接点づくりの過程でできた副産物です。

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