“100億円分の責任” 古い物件を令和仕様にする「大家としての使命感」

資産100億円の大台に到達した不動産投資家の玉川陽介さん。地域や金融機関との付き合いが深まっていく中で、次はどんな活動を目指すのでしょうか。


地域社会から託された資金

――資産100億円となり、次はどこを目指しているのですか?

おのずと地域社会と共生する方向に舵を取ることになります。私に融資しているのは地域の信用金庫であるため、間接的には信金にお金を預けた地域の人たちから資金を託されているともいえます。これだけ多くの融資金を預かって運用する立場となれば、その社会的な責任を意識せざるを得ません。地域の人たちから託されたお金を運用しているわけですから100億円分の責任があります。

信金には、「この人に融資すれば社会的な意義があるだろう」という貸し手の判断があります。誰にでも貸すわけではなく、その忖度を果たせる人に貸します。ですから、その約束は守られなければいけません。

――個人の利益追求が目的ではないということですね。

金融機関も私も私企業ですから、もちろん利益追求は大前提です。しかし、そのために好き勝手をしていいとは思いません。会計の透明性やコンプライアンスを意識することはもちろんですが、もう少し踏み込んだ配慮を求められています。たとえば、不動産の転売には社会的な意義はないとされていますので、仮に利益が出るとしても託された資金でそのような仕事をすべきではないでしょう。「ハゲタカ」といわれるような収益追求も避けるべきです。地域金融機関にお金を預けた地域の人の思いを当社も踏襲する必要があるからです。

地域とのつながりは物件の運用方針にも影響します。古い物件をそのまま放置するのも地域社会から見れば不本意でしょう。きちんと手を入れれば、住み心地のよい家や、子育てしやすい家に変えることができます。しかし、多くの物件は、昭和の時代から誰も手入れするコストをかけてこなかったためにひどく荒れています。このような物件を令和の時代にも使い続けられるように手間ひまをかけていくのもインフラ業としての当社の仕事です。

また、受け入れ先の少ない単身の高齢者や障がい者が安心して住める物件を増やすことも地域に期待された仕事です。建物の物理的なリノベーションだけでなく運用面でも新しい発想を取り入れていく必要があります。

地域を意識した取り組み

――地域を意識した取り組みとしてどんなことができるのでしょうか。

私が取り組んでいることでいえば、例えば、駐輪場不足が問題になっているエリアに自転車置き場を作り、地域住民に使ってもらっています。居住者個々に向けた取り組みとしては、新型コロナウイルスの影響を受けている店舗に対して賃料の減免に応じたり、国の支援策を紹介するなどして地域の商店街経済の活性化に取り組んでいます。生活困窮者からの相談にも前向きに応じます。

――事業規模が大きくなったことで、そのような役割を期待されるようになったということなのですね。

気付いたらそういう係になっていたというのが正直なところかもしれません。役が人を作るということはあると思います。私は、与えられた役割には忠実なので、地域や地域金融機関の意向は常に意識しています。そのため、当社の創業時は「すべての人に金融リテラシを」という投資家寄りのテーマで活動していましたが、近年ではそれに加えて「地域とともに、地域金融機関とともに」というテーマを追加しています。

地域に根差したESGの投資を実践

――地域貢献という点でこれから取り組まなければならないことは何ですか。

意識しているのは地主の世代交代です。戦後生まれである昭和の地主さんたちは高齢ということもあって管理能力が十分とはいえません。この状態が続くと、土地が荒れますし、地域のにぎわいも失われてしまいます。一方、私たちの世代はネットの利用、効率化、最適化などが得意です。そのような点を踏まえながら、住みやすい街並みを維持し、住んでいる人の住環境面の課題を解決する役割を継いでいくことが大事だと思います。

――リノベーションに力を入れているのも世代交代や資産の再生という考えが根底にあるからですか。

そうです。築30年を超えた物件は誰かが大規模に手間ひまをかけて再生させる必要がありますが、お金もかかるので手を挙げる人は多くありません。しかし、それを放置しておくと街全体が高齢化して活気が失われます。建物の再デザインや運用の近代化を通じて、築古物件を令和の現代でも住み続けたい物件にリノベーションすることが大事です。

例えば、所有物件については、食洗機やドラム式洗濯機の置き場を作るなどして居住者の生活利便性向上のための投資をしますし、宅配ロッカー、ゴミ収集ボックス、無料インターネットも付けます。このような取り組みは居住者の評価も高く、保有物件の中でも昭和40年代に建った物件が一番人気になっていたりします。事業面でも、空室で困ることはありませんし、住環境の問題で退去するケースもほとんどありません。

あとは、個人的に潔癖性なので、雑然とした管理状況をなくしたいという思いもあります。つぎはぎで修繕されてきた廊下を統一感のあるデザインで色を塗り直したり、給水管が古くて水質に不安があれば壊れる前でも刷新します。築古の低賃料物件でも安全安心な水が使えることは「日本品質」だと思いますし、その品質を維持するのが住居インフラを提供する当社に与えられた役割だと思っています。

――環境を考え、社会や地域に目を向け、会社としてのガバナンスも重視するという点を踏まえると、ESG(環境・社会・企業統治)な投資とも言えますね。

そうですね。不動産業は環境や社会ともっとも深くつながっている事業のひとつだといえます。ですので、それを意識しないことは許されません。また、当社は金融機関や地域の人たちから大切なお金を託される立場ですので、会計と財産運用の透明性など統治面でも気を遣わなければいけません。そういう点では、ESGに配慮した事業だといえます。環境や社会に最大限の配慮をしつつ、経済的にもしっかりと収益をあげ、それを地域金融機関や地域経済に還元していく。それが当社に求められた社会的な役割だと考えています。

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