斉藤光毅、2億7千万円海外移籍の舞台裏 交渉人が明かす戦略 横浜FCからベルギー2部へ

 日本サッカー界では近年、20歳前後の若手の海外移籍が活発化している。今冬にベルギー2部リーグのロンメルに完全移籍するJ1横浜FCの19歳、FW斉藤光毅もその一人だ。今回の移籍はJクラブから海外に渡る10代の選手としては高額の約2億7千万円とされる移籍金が生じた。日本サッカー協会公認の仲介人で、斉藤の交渉を担当した柳田佑介さんに背景や意義を聞いた。(聞き手、共同通信=大島優迪)

2019年のU―20W杯のエクアドル戦でプレーする斉藤=ポーランドのビドゴシチ

 ―斉藤は横浜FCの下部組織出身でドリブル突破や俊敏性が武器のアタッカー。当初から海外志向が強かったか。

 当初は必ずしもそういう感じではなかった。(バルセロナの下部組織で育ち、日本代表でプレーする)同い年の久保建英(ビリャレアル)の存在が大きい。久保の同世代の選手は皆、彼が基準になっている。光毅も(2018年に16歳で)Jリーグでデビューし、海外からの評価を聞くにつれて自分も早く海外に行きたいとなっていった。

 ―17歳の時に飛び級で参加した19年のU―20(20歳以下)ワールドカップ(W杯)で欧州のクラブの関心が高まった。

 その前の18年のU―19アジア選手権から注目されていた。(有望な若手は)アジアでの大会からチェックされる時代になっており、インドネシアにも欧州のクラブのスカウトが10人は来ていた。その後、U―20W杯の前後で有名クラブも含め様々な欧州クラブから『興味があるのでオファーを検討したい』と言われた。

 ―19年に海外移籍するチャンスもあった。

 実際にオファーはあったが、慌てて行く必要はなく、まずJ1を経験してからという共通認識があった。食事、休息等のコンディショニングも含め、プロ選手として、一人の社会人として生活する力が身につかないうちに海外に行っても成功は難しい。サッカー以外の壁を低くした上で移籍をした方が将来成功する確率が高くなるということを若い選手には伝えている。

 ▽目標から逆算

 斉藤は欧州チャンピオンズリーグ(CL)の決勝で点を取るという大きな目標を掲げる。柳田さんはこの目標から逆算し、移籍プランを策定。強豪クラブに移籍する選択肢もあったが、出番を確保できる欧州の下位リーグで実績を積んでステップアップする青写真を描いた。

 ―有名クラブから関心を持たれる中、移籍プランを立てた。

 ビッグクラブには全世界の才能が集まってくるため競争が激しく、セカンドチームを主戦場とするか下位カテゴリー(のクラブ)にレンタル移籍されることになる可能性が高い。欧州の各リーグの特長や日本人との相性などを説明し、下位リーグで着実に実績をつくってから階段を上る方がいいと話した。

柳田佑介さん(本人提供)

 また21年1月に欧州に移籍する(欧州はシーズン途中のため最初は5月末まで約半年間のプレーになる)という方向性が比較的早い段階で固まったこともプラン策定に影響した。その期間には延期されたU―19アジア選手権も入ってくるため、最初の半年は環境に慣れながらできるだけ試合に使ってもらえるところに移籍する、ということを中心に計画を練っていった。

 ―プレミアリーグの強豪マンチェスター・シティーを傘下に置く英国シティー・フットボール・グループ(CFG)が20年5月に買収したロンメルに移籍先を決めた。

 ロンメルは選手の価値を上げることを重要視しているため、シーズン途中からの加入であっても起用してもらえる可能性が高い。また、ベルギーの環境に慣れロンメルで活躍できれば、そこでのプレーを見て(斉藤に)関心を持ったクラブにレンタル移籍をすることを支援してくれることになっている。

 ロンメルを含むCFGグループは、光毅の成長度合いに応じて最もふさわしいクラブを探すパートナーのような存在として捉えている。彼らの持つネットワークや資源を最大限活用し、一緒に光毅の価値を上げて成長を後押ししようというのが今回のプラン。これが絵に描いた餅に終わってしまわないかどうかは光毅次第だ。

20年8月の清水戦でゴールを決め駆けだす横浜FCの斉藤=アイスタ

 ▽成功事例になるか

 これまで日本では若手が安価な移籍金で海外に渡る場合も多かったが、横浜FCは今回、斉藤を育てた対価として約2億7千万円とされる移籍金を受け取る。クラブにとって有望な若手の流出は痛手だが、優れた育成システムを持つという実績や後進育成につながる。

 ―横浜FCとどのように話を進めたか。

 横浜FCも、いい選手には10代であってもオファーが届く時代になっているということを十分に理解されていた。横浜FCから(直接)海外に羽ばたく事例ができれば、そういった選手をクラブが育てたという実績になり横浜FCに入りたいという選手が増えるという好循環を産む。有望な若手が短い期間で出ていってしまうことは複雑な思いもあるはずだが、クラブとして光毅の成長と挑戦を応援すると言ってくださったのはありがたかった。

 ―移籍金は異例の額となった。

 大前提として、今回しっかりとした額の移籍金を取ることができたのは、自分の力ではないと思っている。選手が海外に行きたいと思い、海外のクラブができるだけ安く獲得したいと思うような力関係の中で、適正な対価を得られないことの多い現状をどうにかしたいと思い、いろいろと試してきたのは事実。ただ、それはいろいろな状況によるので、いつも成功するわけではない。

 光毅がそれだけの評価を受ける選手だったからできたことで、横浜FCとのいい関係の中で自分がたまたま関わることができた。今まで欧州で活躍して価値を上げた日本選手たちがいるからこそ海外での基準が上がっているという背景もある。光毅が頑張って「日本人に2〜3億円の投資をしても十分元は取れる」となっていってくれればいい。

 ―日本選手の移籍の成功モデルになりそうか。

 クラブ側が選手を海外に送り出すという方針を取った際に、選手の育成プランも踏まえ、選手の将来価値を反映した対価を得られるようにクラブと仲介人が意思疎通をしっかり取って共同で進めた移籍という意味で一つのモデルケースになりうると思う。私たち仲介人も、Jクラブと協力させていただきながら日本サッカーの発展に少しでも貢献できる存在になれればと考えている。

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