ベンツE200、ベーシックモデルとは思えない正統派ステーションワゴンの“大胆進化”

メルセデス・ベンツのビジネスのおけるコアモデルとも言える「Eクラス」が昨年9月にマイナーチェンジを行いました。ただその内容は“マイナー…”という表現が当てはまらないほど大きな進化を遂げています。さらに「ハイ、メルセデス」で一気に注目を集めたインフォテイメントシステムにも驚きのアップデートが施されていました。


フルモデルチェンジ並みの進化

世界累計1400万台以上の販売台数を誇るEクラスですが、現行モデルは2016年に日本でも販売を開始しました。

過去にも「マツダ車の年次改良」について書きましたが、輸入車の多くはまさにこれに当てはまることが多く、公式には「新型」という表記でマイナーチェンジとはほとんど言いません。

少々面倒くどい話ですが、このような場合、我々のような仕事をしている書き手は「ビッグマイナーチェンジ」と呼ぶこともあります。

要はフルモデルチェンジまではいかなけど、外観や内装、エンジンや安全装備なども含め、大きくアップデートしたのが今回のEクラスなのです。

ひと目で違いがわかるスポーティな外観

大胆でありながら品のある「ヒヤシンスレッド」のボディカラーは20万7,000円のオプションです

エクステリアはヘッドライトの形状も含め大きく変わりました。昨今のメルセデス車共通の薄型ヘッドライトや下方向に向かって拡がるラジエターグリルやクローム仕上げのダイヤモンドグリルを採用しています。

この辺はお金をしっかり掛けている印象で、改良前のモデルを並べればその差は一目瞭然。特に今回試乗したグレードなどは「AMGラインエクステリア」が標準装備されているのでスポーティさは格段にアップしています。

古きを捨て新しきを取る

インテリアに関しては従来からのデザインを踏襲していますが、メルセデスファンならば写真を見て「あれ?」と思うかもしれません。その理由はセンターコンソール下部に設置されていたアナログ時計が無くなっているのです。

クルマのアナログ時計は他の高級車ブランドなどもこだわりをもっており、メルセデス・ベンツをひとつの“手本”としていたほどです。

ただ自動車業界におけるトレンドのひとつである「CASE」の“C”はコネクテッドを意味しますが、すでに搭載されている最先端インフォテインメントシステムである「MBUX」を進化させ多くの人に認知してもらうためには「古きを捨て新しきを取る」必要があったのかもしれません。

またステアリングホイールに関しても今回試乗したグレードにはメーカーオプションとなりますが、AMGスポーツステアリングが装着されています。このステアリングは次期Sクラスに搭載されるものと同じ形状を持ち、先進安全装備を含めたステアリングスイッチ類も全て刷新されています。

次期Sクラスに搭載される予定の新デザインのステアリングホイールや先進装備を搭載します

このステアリングホイール、実際に握った感触も良好なのですが、実はしっかり進化しています。EクラスにはACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)を使い、高速走行や渋滞時でもステアリングを軽くそえているだけで自動での加減速やステアリングアシストをしてくれる機能を搭載していますが、新型ステアリングはセンサーの方式を変更しました。これにより従来以上に高感度かつ高認識することで結果としてドライバーの疲労軽減に寄与することになります。

AIで賢くなった音声認識システム

メルセデス・ベンツの新世代インフォテインメントシステムである「MBUX(メルセデス・ベンツ・ユーザーエクスペリエンス)」も進化しました。日本では現行のAクラスから搭載を始めたこのシステムは「ハイ、メルセデス」が発話トリガーとなってカーナビやオーディオ、さらにエアコンなどのコントロールも音声で行うことができます。

その一方で当時のAクラスは例えば運転中に「メルセデスのクルマって良いよね」とか話していると、「どんなご用でしょうか」と勝手に認識してまうことがありました。

しかし新型はこれらを含め大幅に改善、いわゆるAIも活用していますが、エアコンを使っていて「温度を25度にして」とわざわざ発話しなくてもこの時期であれば「寒い!」と言えば理解し室温を変えてくれます。

これまでは人間側が発話トリガーとなる一定量の文章を覚える必要もあったのですが、新型はMBUX側が語彙を含めた認識能力を高めたことで使いやすさはかなりのレベルで向上しています。

サインは“V”!?

音声で多彩な操作が可能なMBUXは運転時の注意散漫を防ぐ効果もあります。また昨今インフォテインメントシステムの世界では導入が進んでいる「ジェスチャー機能」にも対応しています。

ユニークなのがジェスチャー操作の中で「Vサイン」をかざすとアンビエントライトの設定画面など事前にプリセットしたお気に入りメニューを表示することができます。まさに「サインはV(古い)」ではありませんが、多彩なUI(ユーザーインターフェース)を持つことでユーザーの好みに応じて操作ができる「選択肢の多さ」も魅力と言えるでしょう。

ARナビは一見の価値あり

MBUXには新たにAR(拡張現実)を活用した「ARナビゲーション」が搭載されています。MBUXの画面は12.3インチと大きいのですが、これを活用して、交差点や分岐点(一般道のみ)に差し掛かると車両に搭載されている光学式カメラが捉えた映像をナビ画面に表示、その上にARを使って曲がるべき方向などを表示できるわけです。

日本初となる「AR(拡張現実)ナビゲーション」。現実の風景に進むべき矢印が表示されます
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実際使ってみると特に画面を凝視する必要も無く、スッと視線を動かした先に実際の風景と矢印表示が現れるので直感的に自分の行くべき方向がわかります。もちろん、こういうのはまだ慣れていないという人のためにオフにすることもできますが、今後はこの手の機能は増えていくはず(但し市販ナビの世界では販売されています)。その点でも一気に未来を先取りした感のある今回のMBUXは魅力的であることは間違いありません。

まさに乗り味はメルセデス

タイヤハウスの張り出しも少ないラゲージルームは640リッターの大容量スペースです

今回試乗したE200スポーツはエントリーモデルに位置します。過去にも書きましたがエントリーモデルは国産車の場合などでは価格訴求をメインにしているケースも多く、実際装備面ではイマイチというケースもあります。

さらにE200スポーツですが“200”の数字から2Lだろう、というイメージを湧きがちですが、実は1.5Lの直4直噴ターボなのです。

1.5Lだと不安に思う人もいるかもしれません。しかしこのエンジンにはBSGと呼ばれる発電機&モーターに48Vの電気システムを搭載するマイルドハイブリッドを搭載しています。

実際走った感覚では低速域や街中での驚くほどのスムーズな加減速が魅力です。この領域は特にモーターアシストが利いているようで、とても1.5L&4気筒とは思えません。もう少し上の排気量を搭載したエンジンといったイメージです。

もちろん車重もそれなりにあるので、坂道などではアクセルを開く量も増え気味になりますが、十分以上の加速性能ですし、何よりもドライバーの意志に忠実に加速するフィーリングはさすがメルセデス!と言えるものです。

個人的には少しリア方向の乗り心地が固めに感じましたが、ステーションワゴンの場合は人+荷物の量がセダン以上に変化するケースもありますので、これは十分許容範囲ですし、装着されているタイヤが乗り心地面ではやや不利になるランフラットタイプの割には十分な乗り心地と接地感を感じることができました。

今回試乗したこのグレードは810万円、前述したAMGステアリングなども含めた「AMGラインインテリアパッケージ」にはナッパレザーシートなども装着されますが、その価格は52万5,000円となります。ただ、重要な先進運転支援システムはエントリーグレードであっても標準装備。ステーションワゴンとしては荷室の使い勝手も含め「ど真ん中」と言える1台と言えるでしょう。

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