GAFAの時代は終わり? 2020年代、日本企業がコンテンツビジネス分野で躍進しそうなワケ

インターネットは一般社会に浸透し始めてから20年超にかけて進化してきました。前半の10年間が第一段階の「情報のデジタル化(デジタイゼーション:DX1(注1))」、後半の10年間が第二段階の「プロセスのデジタル化(デジタライゼーション:DX2(注2))」としてGAFA(注3)を中心としたプラットフォーム主導で進められてきたと考えられます。

今後は第三段階の「産業構造のデジタル化(デジタルトランスフォーメーション、DX3(注4))」という新次元のデジタル化が業界や分野毎に始まることになります。その中で、大きく変化、成長するとみられるコンテンツビジネスについて紹介します。


コンテンツ分野が恩恵を受ける時代に

DX1の時代はPC向けを中心に、様々な日系企業が比較的自由な事業展開によって高成長できた時期でした。一方、DX2ではスマートデバイスではAppleのiOS、GoogleのAndroidが支配的地位を占め、ソーシャルメディアをベースにした新しいコミュニケーションスタイルではFacebookは大きな影響力を持つようになりました。

今後のDX3という段階は、ビジネスモデル、経済システム、法律や規範、組織など社会システム全体のデジタル化を意味しています。DX1とDX2が完了したことによって迎えられる局面であり、特にコンテンツ分野は制作から配信までのバリューチェーンの効率化の恩恵を享受できると思われます。

(注1)Digitization:デジタル化された情報のインターネットによる配信。
(注2)Digitalization:多くのインターネット関連の対個人向けサービスのトランザクション(取引、処理等)において「プロセスのデジタル化」が進展。
(注3)Google・Amazon・Facebook・Apple。結果として日本のインターネット関連分野においてはGAFA系サービスの占有率が高くなり、全体として国内勢は押され気味である。
(注4)Digital Transformation。具体的には広告代理店の「デジタルシフト」を考える場合、従来の「媒体枠の仕入販売によるマージン獲得」から「広告主に対するマーケティングサービスのサブスクリプションやSaaSなどによるサービス」へ転換するイメージを指す。

バリューチェーンはどう変わるか

デジタルコンテンツ分野は構造的にバリューチェーンの全てをオンライン上で完結できるセクターです。このことが、2020年代のインターネットによるDX3がもたらす効率化のメリットを最大限に享受できる要因と考えられます。

コンテンツ分野(音楽・映像・書籍)ではアナログが主流の時代に形成されたバリューチェーンの構成要素が、今後は「新興勢力による新たな仕組み」への代替によって効率化が進展することになると予想されます。

分野別需要の変化として音楽ではパッケージ音源(CDなど)からストリーミングサービス(Spotifyなど)、映像では民放(テレビ広告)からYouTube(動画広告)、書籍では紙書籍から電子書籍へ各シフトする動きがあります。

特に、音楽分野においては世界のレコードレーベルのメジャー6社が3社に統合(注5)されたほか、クリエイターが制作したコンテンツが直接Spotify経由でユーザーへ配信されるなどバリューチェーンが効率化される動きが既に起こっています。

(注5)1990年代ではメジャー6社としてWarner Music Group、Universal Music Group、Sony Music Entertainment、BMG、EMI、Polygramが存在していたが、現在はSony BMG、Universal Music Group、Warner Music Groupの3社に統合されている。世界ベースではこれら3社の市場シェアは6割に達しているが、日本では4割弱に留まっている。

クリエイターがビジネスモデルを作る

今後、同様の動きが映像や書籍の分野でも起る可能性があるでしょう。すなわち、映像分野のテレビ局、書籍分野の出版社などの数が集約され、クリエイターからユーザーまでのバリューチェーンも効率化される方向に向かう展開が起こりうると思われます。

従来は有能なクリエイターを組織が発掘・育成し、再投資によって収益の最大化を図るというスタイルが主流でした。今後はクリエイター自身が制作、配信およびマネジメントをコントロールする動きが強まると考えられます。

今後のデジタルコンテンツ産業ではバリューチェーンの再編が進行するなかで、クリエイターへの収益の配分シェアが高まり、クリエイター自身が「最適なビジネスモデルの構成要素」を選択できる時代になると思われます。

高いポテンシャルを持つ分野、企業は

音楽、映像、書籍などのコンテンツビジネスは才能の原石を囲い込めるサービスを提供できる新興勢力のうち、どのような分野、産業が高いポテンシャルを持つのでしょうか。

新たな動きとしてデジタルコンテンツ領域ではブロックチェーンの活用が具体化しつつあります。電子書籍取次を主要業務とするメディアドゥ(3678、東1)ではブロックチェーンによってユーザー側とコンテンツ側のIDを一元管理し、ファイル販売後の付加価値サービスの提供や電子ファイルの二次流通などの実現が期待されます。

特に、最近では書籍コンテンツをベースにした「クロスメディア戦略(注6)」が拡がる傾向にあり、ライトノベルの漫画化(コミカライズ)、「コミック」のアニメ・ドラマ化という相乗効果を狙う動きが活発化しています。この効果はデジタルコンテンツビジネス全体にポジティブな影響をもたらすと思われます。

(注6)一つのコンテンツを多用途化し、複数メディアへ出力する手法。

音楽、映像分野でも新興企業が続々

他の関連企業としては以下の通りです。音楽分野ではアーティストの楽曲管理等を手掛けるNexTone(7094、東マ)、総合エンタメ企業として音楽ライブ配信に注力するブシロード(7803、東マ)が注目されます。

映像分野ではYouTube関連のUUUM(3990、東マ)、Instagram関連のサイバー・バズ(7069、東マ)、書籍分野では投稿サイトを運営する新興出版社のアルファポリス(9467、東マ)、自社制作の漫画アプリを運営する広告代理店のセプテーニ・ホールディングス(4293、JQS)が挙げられます。

<文:主席研究員 納博司>

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