躍進 大崎初の甲子園へ<下> 成果を広げたい うねり生み始めた地域

選抜初出場を決めて多くの報道陣に囲まれ、地域の祝福を受けた大崎の選手たち=西海市大島若人の森野球場

 数年前まで誰も予想していなかった大崎の飛躍に地域は沸いた。掲げている「スポーツによる振興」に向けて最高のスタートを切った。「西海市」と袖に記されたユニホームで甲子園に立つチームは、地元に元気と感動を届けてくれるだろう。一方、学校は定員割れが続き、人口減も歯止めはかからない。この現状を好転させるのは、並大抵のことではない。

■自分たちが
 市職員でもある監督の清水央彦(49)は「決して野球だけ強くしようとしてもだめ。周りを巻き込んで成果を大きくしていかないといけない」と繰り返す。「例えば、よく交通面でバスが少ないから入学者も来ないと話になるが、学校の魅力が上がればバスの本数も増えるはず。そういう動きを人任せではなく、まず自分たちからやっていきたい」と強調する。
 「大崎」が表す大島、崎戸両町には、学校のグラウンドのほか、チームが練習する市営の野球場、その隣に陸上、サッカー、ラグビーなどができる施設がある。地域外のチームや旅行者を招ける宿もある。厚い人情をはじめとするソフト面も“田舎ならでは”。それらの活用や再整備を野球以外でも広げることが理想だ。
 そのためにも一過性ではなく、第一に野球で継続して成果を出す必要があると考える。甲子園初出場を果たす今年の目標について清水は選手たちに言った。「おまえたちがやることが学校の評価になる。評価はどんどん厳しくなる。見据えるものを上げていかないと。個人でできないなら集団の力を使ってやれ」と。
 それは選手たちも理解している。日々の生活は「地域のおかげ」と感謝してやまないから「次は自分たちが」という意識がチームに浸透している。2年生エースの坂本安司は「自分がすごいと思われないと、これから大崎に選手が入ってこない」、1年生左腕の勝本晴彦も「自分たちの代で甲子園に行けなくなったと言われたくない」と結果にこだわっている。
■第二の古里
 県や九州内での大崎の強さは今、誰もが認めるところ。2019年夏に負けた後は県内主要公式戦で28連勝。そのまま昨秋の九州大会で4連勝して頂点に立った。だが、2年生捕手の調祐李は「全国では自分たちは下の方。今のままでは勝てない」と言い切る。チームは「甲子園は出る場所ではなくて勝つ場所」だと共有できている。
 高校生が本気で何かに打ち込み、地域と交流しながら成果を上げる。それを基に大人が、行政が、知恵を絞り、次の一手を打ち出していく。そんな地域振興のモデルケースになり得るかもしれない。清水をはじめ、覚悟を決めて親元を離れてきた選手たちの“第二の古里”は、それほどのうねりを生み始めている。
 約1カ月半後、初めて西海市の学校が球児の聖地に立つ。活躍すればするほど、地域の理想に向けた原動力となるだろう。打倒大崎に県内他校が燃え、競技力もさらに上がってくるはずだ。
 チームは今後、追われる立場として、県内で勝ち続けること、全国で結果を残すことを追求していく。決して平たんな道のりではないが、地域の大きな期待を背負った価値ある挑戦となる。
 「高校野球はなんだかんだ今も影響力がある。そこで得た成果を自分たちだけのものにせず、別のところに波及させていきたい。それだけの恩を地域から受けている。もらったものは返す。それが当たり前だから」。清水は選手とともに、そう腹をくくっている。(敬称略)


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