岐阜県知事選の「主流」は保守ではなく「棄権者」だった・下(フリーライター・畠山理仁)

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新型コロナ禍での選挙戦

当選報告のために県庁から事務所に移動した古田肇知事。検温と手指消毒をしてから会場に入った

新型コロナウイルスの感染拡大は「選挙」のあり方を大きく変えている。

立候補届出会場にも透明のアクリル板が設置された。集会の入り口や事務所、開票所に入る前にも検温とアルコール消毒が求められる。人と人との距離を取らなければならない感染症対策は、候補者の熱を伝える際の大きなハードルになっている。

選挙戦中、私は岐阜の街を車で移動していたが、本当に有権者に出会えなかった。どこに行けば人がいるのかも見当がつかなかった。スーパーマーケットや駅前で行われる演説会にも足を運んだが、足を止めて演説を聞く人はそれほど多くなかった。

象徴的なシーンは、江崎陣営が名鉄岐阜駅前で行った最終演説だ。ここには50人近くが集まり、人だかりができていた。候補者のそばにいくと、大きな盛り上がりを感じた。しかし、20mほど距離を置いてみると、そこにいる人たちの多くが陣営スタッフであることがわかった。江崎氏が開く集会では、別の会場と同じ顔ぶれを見つけることも少なくなかった。通常であれば、陣営スタッフの熱が通行人にも伝播する。しかし、緊急事態宣言下の夜の街を歩く人はまばらだった。

江崎陣営が名鉄岐阜駅前で行った最終街頭演説

それでも各陣営は工夫を凝らしていた。江崎陣営は河川敷での「ドライブイン演説会」など、新しい試みにも挑戦した。聴衆が演説内容に同意したときには、車に乗った支持者が一斉にパッシングライトを点灯させる様子はなかなか見応えがあった。そうした様子をオンラインで配信することにより、支援の輪を広げていこうとする努力が随所に見られた。

江崎陣営が長良川河川敷で行った「ドライブイン演説会」

ただし、ドライブイン演説が終わった後、候補者と有権者は車から降りてグータッチや肘タッチをしていた。選挙は「接触機会の多寡」が勝敗を左右する。だから、どうしても候補者と有権者はふれあいを求めてしまう。やはり、実際の接触に勝るものはないのだろう。

今回の選挙戦において、古田、江崎両陣営は、インターネットを活用し、オンラインで有権者からの質問に応えるイベントも企画した。古田陣営は1月22日に「オンライン演説集会 オール岐阜ファイナル」を開催し、1200人が視聴した。

支援者を集めずに行った当選報告集会で、古田はコロナ禍での選挙を次のように振り返っている。

「新しい選挙の息吹を感じました。デジタルを十分活かしながら、リモートでも心と心はつながるんだということを様々な場面で実感いたしました」

コロナ禍では、密になる集会はなかなか開けない。今後はオンラインでの選挙戦がますます重要になっていくことは間違いない。

見直されない選挙制度

オンラインで行われた古田陣営の当選報告会。支援者を事務所に集めることはせず、国会議員もリモートで挨拶。モニター画像は野田聖子衆議院議員

現職の古田氏は、当選後の報告会でこんなことを言っていた。

「今、なんで選挙ですか。こんな時に選挙をやらなきゃいけないんですか、という質問を数多く受けました」

同じような疑問を抱いた人は多いはずだ。しかし、コロナ禍でも選挙は行われる。

私は昨年4月17日に行われた首相の記者会見で、当時の安倍晋三首相に「コロナ禍での選挙」について質問した。(https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/statement/2020/0417kaiken.html)

この質疑のポイントは「安心して投票する権利を保証するための施策」「郵便投票の拡充、インターネット投票の検討や選挙の延期について」である。

私の質問に対し、安倍首相は次のように答えていた。

「民主主義の根幹である選挙については、言わば『不要不急のものではない』という判断の中において、感染リスクを避けながら実行させていただいています」

有権者が安心して投票する権利については、次のような言及もあった。

「大きな変化の中で、選挙もどう考えるべきかということについては、当然、議論していく必要が、これはなるべく国会において議員の皆さんが議論していただくべきことだろうなと、こう思っています。なるべく投票率を上げる努力はこういう中でもしなければいけないし、今後どうすべきかということについては、基本的には、基本中の基本であるこの選挙については、できる限り実施していくこととしたいと、こういうふうに考えています」

この質疑からすでに9カ月が経過した。2度目の緊急事態宣言も発出された。しかし、「コロナ禍における選挙」について、国会で議論が深まっているとは思えない。

有権者が安心して投票する権利は本当に保障されているのだろうか。投票率50%を切る選挙が続くなか、そろそろ抜本的な選挙制度改革が必要ではないだろうか。

このままでは、半数以上が選挙に行かない「有権者分裂選挙」は終わらない。それは日本の民主主義にとって、きわめて不幸なことである。
(文中敬称略)

 

オンライン当選報告会で視聴者に手をふる古田肇氏

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