長崎・中村知事 県政の展望<4> 人口減少対策 島の雇用掘り起こし

これまでに41人を雇用したビーイングDCの事務所=五島市江川町

 人口減少が止まらない長崎県で、五島市は2019、20年に市内への転入者が転出者を上回る「社会増」を達成した。本土に比べて交通や医療など生活環境の制約も多い離島で、2年連続の“快挙”を導いた原動力が、地元国会議員らが成立に尽力した17年施行の国境離島新法だ。雇用創出を促すことで島民の転出を防ぎ、島外からの移住も進んでいる。
 同法の雇用機会拡充事業を活用し、17年8月に営業を始めたビーイングDC(同市江川町)。同市出身の津田能成が創業したソフトウエア開発・販売業ビーイング(津市)の子会社で、親会社から切り分けたデータ入力業務を担う。これまでに41人を雇用し、同事業を活用した企業の中では最大規模だ。
 社員は平均33歳で、地元出身者が大半を占める。社長の藤田浩久(50)は「新法の補助金で資金を確保できたから『五島でやってみよう』と思えた。雇用を守り地元に恩返しをしたい」。今後は、社内教育の充実や新規事業による雇用増、地元高卒者の採用などを目指す。五島市内でも17~19年度、同事業に採択された124事業者が雇用した392人のうち、約7割が地元在住者、残りが移住者で、市は「特に転出抑制につながっている」とみる。
 ただ企業側の人材確保は容易でなく、同市の有効求人倍率は「1」を超える高水準で推移。市によると新法により今まで島になかった新たな業種が生まれ、求職者の選択肢が広がった半面、求人と求職のミスマッチから介護や保育、建設などを中心に慢性的な人手不足に悩む。同社も「昨年後半くらいから応募数が減り、足踏み状態」(藤田)。さらにコロナ禍によるリモートワークの普及で、島にいながら給与水準の高い本土の会社を就職先に選ぶ人もおり、同社にとっては「脅威」という。
 昨年12月の定例県議会一般質問で、県側は「(新法で)人口の社会減が改善するなど成果が出ているが、(雇用機会拡充事業の)新規採択件数が減少傾向にある」と答弁。県内離島での17年度の採択は116件だったが、19年度は86件。島内の企業や人材だけではおのずと限りがある。知事の中村法道は24日の定例県議会で「島外からの人材確保を支援するとともに、地元市町と連携し事業者の掘り起こしに力を注ぐ」と述べた。
 県は新年度、島内企業の採用力向上のためのセミナーを開催するほか、求人特設サイトを開設してマッチングを支援。島内企業への意向調査で事業の新規活用の掘り起こしに努め、福岡のような都市部で事業説明会を開いて島外企業の島内進出を促す方針だ。
(文中敬称略)


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