早期退職希望の55歳独身男性「退職後、どれくらい生活を切り詰めればいい?」

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、55歳独身、早期退職を希望されている男性です。現在の資産は、貯金500万円、投資800万円、住宅ローン残債約1900万円、投資用のマンションを3戸をお持ちです。将来は退職金と年金と確定拠出年金を受け取れます。退職後はどれくらい生活費を切り詰めればいいでしょうか? FPの横田健一氏がお答えします。

55歳の今、早期退職したいが、今の資産状況で退職しても大丈夫なのかわからない。退職後、生活費や小遣いをどれだけスケールダウンすればよいか? アルバイトをするべきか? も知りたい。

【プロフィール】

・男性、55歳、会社員、独身

・住居の形態:持ち家(マンション・集合住宅・大阪府)

・毎月の世帯の手取り金額:給与34万円+不動産賃貸収入18万円

・年間の世帯の手取りボーナス額:160万円

・毎月の世帯の支出の目安:32万5,000円

【毎月の支出の内訳】

・住居費:2万円

・食費:5万円

・水道光熱費:1万5,000円

・保険料:5,000円

・通信費:1万5,000円

・お小遣い:12万円

・その他:10万円

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:1万5,000円

・ボーナスからの年間貯蓄額:160万円

・現在の貯蓄総額:500万円

・現在の投資総額:800万円

・現在の負債総額:1,875万円→住宅ローン:物件購入額3,200万円、借入額3,000万円、金利0.4%(固定10年あと2年で変動に)、残債1,875万円

・老後資金:厚生年金:55歳退職で年170万円(65歳から)、55歳退職金:1,900万円、確定拠出年金:現在500万円

・都内にワンルームマンション3戸所有(平均築18年)から毎月手取り18万程度収入あり(ローン完済)


横田:ご相談頂きましてありがとうございます。株式会社ウェルスペントのファイナンシャルプランナー、横田健一です。

すぐにでも早期退職したいがその後のお金がどうなるか確認しておきたい、というご相談ですね。まずは今後のお金を「見える化」するところから始めたいと思います。

今後30年間の収支を「見える化」しましょう!

住宅ローンの借入期間や住宅ローンの返済額が生活費のうちの「その他」に含まれているかなど、詳細がわからないのですが、次のような少し保守的な前提でお金を「見える化」していきたいと思います。

●2021年末まで働き、年末に退職金1,900万円を受け取る
●住宅ローンは当初借入期間20年で借り、残り12年間
●住宅ローンの年間返済額は現在年間160万円で、生活費の「その他」には含まれていない
●保険料5,000円は59歳まで支払うものの、その後は発生しない
●確定拠出年金は、今後利回り2%で運用できるものとし、60歳になったら一時金として受け取る
●不動産収入金額、マイホームおよびワンルームの評価額はそれぞれ年率-1%で下落していく

このような前提で計算すると、今後の収支は次のようになります。

今年の末で退職されると、来年以降しばらくは不動産収入のみとなります。その後、60歳で確定拠出年金を一時金として約563万円受け取り、65歳からは公的年金を年間170万円受け取ることになります。

一方、支出ですが、今後12年ほどは住宅ローンの返済が継続するものの、その後は住宅ローンの返済がなくなり、また保険料も途中からなくなるため、67歳以降は年間384万円になります。

資産残高の推移を「見える化」しましょう!

次に資産残高の推移について「見える化」していきます。

マイホームは購入時の3,200万円、またワンルームマンションは現在の手取り収入が年間216万円(=18万円×12カ月)ということですので、実質利回りを4%として割り戻すと市場価格の概算金額は3室合計で5,400万円となります。

現在手元にある金融資産にこれら不動産を加えて、資産総額についての推移をグラフにすると次のようになります。なお、投資残高の800万円につきましては詳細がわからないのですが、利回り4%で運用できると仮定して計算しています。

グラフの上側が資産、下側が負債、資産から負債を差し引いた純資産を赤の折れ線グラフで表示しています。

65歳で住宅ローンを完済した直後の純資産は約8,557万円となり、金融資産は貯蓄および投資を合計して約934万円ですが、ワンルームマンションは約4,786万円となっています。区分マンションを3戸ということですので、必要に応じて生活費に充当するために、1戸ずつ売却されていくとよいかと思います。積立投資で時間分散という考え方があると思いますが、不動産を売却していく時も、いつが売り時かを見極めるのは難しいため、一度に処分するのではなく、必要に応じて一戸ずつ売却されるのがよいかと思います。また、一度に売却してまとまった現金にしてしまうと、その分を運用にまわさないと何も収益が生まれません。一方、一戸ずつ売却して、残りは保有し続けていれば家賃収入は発生しつづけますので、運用も継続できることになります。

状況に応じてご判断頂くのがよいと思いますが、例えば、65歳、75歳、85歳と10年おきに1戸ずつ売却していくといったシナリオも考えられます。ただ、高齢期においては認知症などにより不動産取引などが自由に行えなくなる可能性もあるかと思いますので、そのような可能性も踏まえて少し前倒しで換金されるのもよいと思います。

リタイア後のライフプランも検討を

支出のスケールダウンやアルバイトの必要性を懸念されていたようですが、これまで見たようにお金の面を見る限りは、お持ちのワンルームマンションを適切なタイミングで売却しながら生活されていけば、特に支出カットやアルバイトの必要性はなさそうです。

一方で、重要となってくるのは早期退職された後のライフプランだと思います。どのような理由で早期退職されたいのかにもよりますが、退職されて自由な時間が増えた時にどんなことをされて過ごしていくのかが重要です。リタイア後は「きょういく」と「きょうよう」が重要という話もあります。「きょういく」というのは「今日行くところ」、「きょうよう」というのは「今日の用事」で、いずれも、リタイア後も充実した人生を送るためには、何かしらやることをスケジュールに入れておくことが大切だということです。リタイア後、何もやることがなくて、テレビを見るだけの生活になってしまった、という方もいらっしゃるようですので、ぜひ早期退職前から、退職後の活動プランを検討して頂ければと思います。

以上、ポイントをまとめますと以下のようになります。

●今後の収支および資産残高の推移を確認する限り、早期退職されても、現在の生活水準を維持することは十分可能と思われます。
●ご自宅以外の不動産であるワンルームマンションについては、必要なタイミングで現金化しながら生活資金に充当されていくとよいでしょう。
●リタイア後のライフプランについて十分検討されていないようでしたら、退職を実行される前にぜひしっかりと検討して頂ければと思います。

ご参考としていただけましたら幸いです。

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