【 3 】就職はしない。雑誌で「自己表現」続けたいから 編集者 永田崚さん(22)、竹本拓史さん(22)の場合   

「若者の新聞離れ」が言われて久しい。興味の多様化や情報機器の発達、ライフスタイルの変容で、マスメディアに求められる形や内容も様変わりした。これまで長崎新聞は、若者たちの声や要望をどれだけ聞いてきただろうか。「シンブンってものが、ありまして」―。記者が県内のさまざまな若者たちを訪ね、新聞との接点を探った。

外国人バーが並ぶ佐世保市中心部の一角の喫茶店。懐かしい雰囲気が漂うソファ席で、永田崚(22)と竹本拓史(22)は1冊の雑誌を取り出した。「もうぼろぼろで」。ページをめくり、笑い合った。

 

深夜まで編集「めっちゃ楽しい」けど…


2人はこの春に県立大を卒業した。在学中に同世代の若者のインタビューを集めた雑誌を自費出版。好きなことを続けたいと就職はしなかった。映画館でアルバイトをしながら、もう1人の同級生と第2弾の発行に向けて準備中だ。

住まいは家賃4万2千円の築46年の一軒家。崚ら3人と、ネオンサインの職人を目指す友人で暮らす。3人全員が家に集まるのは午後10時ごろ。手が空いたメンバーが作った料理で食事を済ませ、午前3時ごろまで編集作業をする。

今の暮らしは「めっちゃ楽しい」。だけど気になることもある。〝当たり前の人生〟から取り残される感覚や将来の見通し…。「やりたいことがあってうらやましい」。就職した友人の言葉に拓史は「不安だよ」と言い返したくなる。

 

堅い。長い。「新聞はあり得ない選択」


記者も2人と同じように誰かに話を聞き、活字にする仕事をしている。新聞社で働くことは考えなかったのか―。そう尋ねると崚は「新聞は堅くて、白黒はっきり付けなきゃいけない気がする。やりたいことはそうじゃない」ときっぱり。拓史も「雑誌作りは自己表現」と力を込める。

そんな2人は当然新聞を手に取らない。「大人」が読むイメージがあるし、ニュースはネットで浅く広く把握する。「簡単に情報が見つかるのに、お金を払って長い文章を読むことは今の若者にはあり得ない選択」と冷静に分析する拓史。「でも人が見える、血が通った記事は読みたい」

 

どんな記事書きたい?シンブンとワカモノの交差点


崚と拓史はいつか、誰もが知る人の内面に迫る取材がしたいと考える。SNSの広がりで誰とでも交流ができる一方、印象が重視され、人の本心が見えない不安感が社会に漂っている気がするからだという。それは記者にはない感覚だった。きっと世の中には新聞がつかみ切れていない若者の「今」がある。そして若者に伝え切れていない新聞の姿もある。

「どんな記事が書きたいですか」。取材中、興味津々な様子で2人に尋ねらえた。新聞と若者の交わる点は必ずつくれる。そんな思いを強くした。

 

=文中敬称略=

記者:嘉村友里恵(31歳)

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