ぐらすたTOMO ~ 多彩でかっこいい吹きガラスをつくるガラス工房

「IGUSA GLASS – いぐさガラス -」を知っていますか?

畳表(たたみおもて)の原料である「い草」を燃やして灰にし、ガラスに熔かして色を出したガラスです。

倉敷市で「IGUSA GLASS」を作っているガラス工房を訪れ、作家の水口智貴(みなくち ともき)さんに話を聞きました。

IGUSA GLASSとの出会い

筆者がIGUSA GLASSに初めて出会ったのは、「語らい座 大原本邸(旧大原家住宅)」でした。

語らい座 大原本邸のブックカフェでお冷が入っていたのが、きれいな緑色のグラスだったのです。

倉敷産「い草」の灰を使って作っている「IGUSA GLASS」だと教えてもらい、興味を持ちました。

岡山県南部は、かつてい草の一大産地であり、全国で最も古い産地とされています。伝えられるところによると、なんと1800年前から倉敷でい草が栽培されていたそうです。

IGUSA GLASSはどんな経緯で生まれ、どんな想いで作られているのでしょうか?

IGUSA GLASSを作っている、倉敷市水島地区にある吹きガラス工房「ぐらすたTOMO」を訪ねました。

吹きガラス工房「ぐらすたTOMO」と、ガラス作家水口智貴さん

取材日の気温は約30度、工房は灼熱の炉が常に稼働しているため外より暑いのですが、当日は職場見学に訪れた小学生が、ガラスができる様子を興味深そうに眺めていました。

ぐらすたTOMOを運営するのは、水口智貴(みなくち ともき)さん

水口さんは愛媛出身です。美術系の高校に通っていた際に立体物の面白さに目覚め、知り合いのギャラリーでガラス作家さんの展示に出会い、ガラスに興味を持ったそうです。

その後、吹きガラス体験に行ったり、ガラス工房に何度か行き話を聞いたりして、ガラスへの関心が高まりました。

2000年にガラスを学ぶために、倉敷芸術科学大学へ進学。倉敷の地で師匠に出会います。

師匠の工房で働いていたところ2005年に師匠が急逝し、師匠の家族の意向もあり工房運営を引き継ぎました。仕入など何もわからず綱渡りのような状態だったそうです。

水口さんは2007年に工房「ぐらすたTOMO」を設立し、現在さまざまな吹きガラスを制作しています。

数々のメディアにも掲載されていますよ。

水口さんのガラス作品

水口さんの作品には、クールでシャープな美しさを感じます。

本人が「銀熔変(ぎんようへん)」と名付けたオリジナル技法の作品は、黒の中に銀色の模様が浮かび、まるで銀河のよう

見る角度を変えると、色味や雰囲気も変わって見えて、吸い込まれるような魅力があります。

手に取ってじっくりと眺めたい、そんな作品です。

「銀熔変」以外にも、オブジェや器、キャンドルホルダーなど、さまざまな作品を制作しています。

2022年10月現在、水口さんの作品は、倉敷市内では以下の場所で購入できます。

  • ぐらすたTOMO
  • アイビー工房
  • 語らい座 大原本邸
  • kobacoffee(コバコーヒー)

倉敷市外でも販売されている他、展示会場で購入したり、直接制作を依頼できます。

ぐらすたTOMOで直接買うときには、PayPayも使えます。

IGUSA GLASS

IGUSA GLASSができるまで

IGUSA GLASSは、水口さんと、同世代である「IGUSA LABO(イグサラボ)」の今吉俊文(いまよし としふみ)さんとの出会いから始まりました

「IGUSA LABO」は、倉敷で唯一、い草の栽培からい草製品の製造までを一貫して手がけています。

おおまかに作り方を説明しましょう。

  • 天然の泥染めを施したい草を乾燥させます。
  • 乾燥したい草を、専用窯で灰にします。
  • 灰を精製し、ガラスの粉に混ぜます。
  • 熔かすと、化学反応によりきれいな緑色になります。

文字にすると簡単そうに見えてしまうかもしれませんが、安定して作れるようになるまでには、数々の試行錯誤があったそうです。

開発時のエピソードは、記事後半で紹介します。

IGUSA GLASSの特徴とラインナップ

2022年10月現在のラインナップは、ぐい呑・お冷グラス・ロックグラス・タンブラー・ビアグラスなどのグラスと、お皿です。

グラスのサイズと価格は以下のとおり。

シンプルでスタイリッシュな形が、ガラスの質感と色の美しさを引き立てています。

飽きのこない、老若男女が日常で使いやすいグラスです。

続いて水口智貴さんに、仕事や「IGUSA GLASS」のこれまでとこれからについてお話を聞きました。

水口智貴さんインタビュー

インタビューは2019年7月の初回取材時に行なった内容を掲載しています。

──IGUSA GLASSの開発で苦労したことはなんですか?

水口──

ガラスで新たに色を作るのは、けっこう大変なんです。

それでも「他でできないことをやろう」という思いで、投資し炉を設計し直し、1年以上実験を繰り返しました

薬品がかったような見た目になってしまって、熔かしても熔かしても廃棄するしかなかった時期もあります。新しい取り組みなので、相談できる相手もいません。

い草の燃やし方や燃やす道具、配合なども手さぐりでやってきて、ようやく安定して作れるようになりました。

──こだわりを教えてください

水口──

IGUSA GLASSは価格を抑えていますが、作品の精度は厳しい基準で見ています。

シャープなイメージを目指していて、かっこいいことに重きをおいてやっていますね。

吹きガラスは、薄いものほど作るのが難しいんです。でも、たとえばコップは薄いほうが味を邪魔しないといわれますし、僕自身がコップを選ぶとしたら絶対口の薄いものを使いたい。

気に入らないものは、売りたくない。妥協したくなくて、厚みや全体の重さなど厳しくチェックしています。

──水口さんにとって、IGUSA GLASSはどんな製品ですか?

水口──

IGUSA GLASSは、僕の作品としてではなく、工房の製品として制作しています。僕も作るし、スタッフも作る。サインも入れていません。

ゆくゆくは、他の工房にも作ってもらうことを考えています。

──他の工房に?

水口──

吹きガラス工房は、ガラスを熔かす窯を維持するだけで月何十万もかかるんです。ずっと火を絶やせないので。

僕が工房を始めたのは25歳のときだったんですが、販売ルートもないし、個展させてもらえるギャラリーも少ないし、お金だけは飛んでいくし。

立ち上げはできても、維持するのが難しいんですよ。

毎日作っても、それが売上になるかはわからない。

でも注文品があって、その分は作ったらお金になるというパターンができれば、全然違います。僕が工房を始めたときは、正直それがめちゃくちゃほしかったです。

IGUSA GLASSを他の工房に注文できるようになって、若手の人が独立するときの手助けになる商品にできたら、嬉しいと思います。

のちのち、ですけど。まずは、IGUSA GLASSの売り場所を増やしていきたいです。

倉敷の特産品として、認めてもらえるようになればと思います。さらに、岡山のガラス、日本のガラス、となっていけば面白いですけどね。

──吹きガラス作家ってどんな仕事なのでしょう?

水口──

仕事内容としては、めちゃくちゃきついです。

不安だらけですし、お金にはならないし、夏はすごく暑いし、休みもありません。

倒れる寸前まで仕事をしますから、人には「やめたほうがいいよ」って言いますね(笑)。

吹きガラスを仕事にしてみたいという人でも、1週間きつい仕事を体験したら、ほとんどは続きません。それでもやりたいって人は続けられると思います。

僕はものづくりが好きなので、制作は苦になりません。

でも、売るのは難しいし下手ですね。役割分担して、売るプロに任せるのを軸にしています。

──平成30年7月豪雨災害の際には、寄付を募ったと聞きました。

水口──

実はここの工房も、7~8年前に台風による川の氾濫で膝下くらいまで水没したんです。1ヶ月半、営業停止しました。

その時に助けてくれたのが、作家仲間でした。知らない間に募金を始めてくれてて、お金をまとめて持ってきてくれて。助けてもらったおかげで、今があります。

平成30年7月豪雨災害では、知り合いも、あるガラス工房も被災しました。真備以外でも大きな被害があって。

近所の土砂崩れ現場や真備で作業手伝いもしましたが、「他にもなにかできないか」とガラス工房と自営業の友人にむけての募金をスタートして、渡しました。

協力してくださる方が多くて、ありがたかったです。

──最後に、今後の目標を教えてください。

水口──

IGUSA GLASSのラインナップは、一輪挿しや小鉢も検討しています。ウエディング関係のものもできたらと考えています。

余裕ができたら、照明をつくろうかなと。ガラスでこういう色だから、光を当てるときれいに見えるので。

い草を織ったものと合わせられないかなと想像しています。製品の一部として、い草製品と組み合わせて作りたいですね。

自身としては、美術品やオブジェのような作品に力を入れていきたいです。

おわりに

これまで、IGUSA GLASSや、水口さんの作品を見て、かっこよくてきれいだなあと思ってきたので、工房を訪れるのが楽しみでした。

1,000度を超える炉から出てきたばかりの、どろっとした真っ赤なガラスには、神秘的なパワーを感じます。熔けたガラスが固まるまでの短時間で、手早くも丁寧に作品を形作っていくさまは、感動的!

撮影用に作品をお借りしたところ、美しさに撮影の手を止めて見入ってしまいました。

ぜひ実物を手にとって、光にかざしてみたり、影の模様を眺めたりしてみてください。

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