9月から厚生年金保険料が値上げ、影響あるのはどんな人?

9月から厚生年金保険料が値上げになることはご存じでしょうか?新型コロナウィルスの感染拡大の影響で勤務時間の短縮や残業代がなくなり家計が厳しい人もいると思います。このような状況下で厚生年金保険料の負担が増えるのはどんなケースなのか?正しく理解しておきましょう。


値上げの対象は一部の高所得者だが…

はじめにお伝えしておくことは、今回の値上げ対象になるのは一部の高所得者です。では、「一部」とは具体的にどのくらいかというと、約15人に1人の割合になります。これは、2017年末時点の厚生年金加入者数4,400万人に対して約290万人が対象者というデータから算出をしています。一部という言葉からイメージする数よりは多いかもしれません。また、「高所得者」については、月収63万5,000円以上をもらっている人です。ただし、値上げが始まる9月に63万5,000円以上の月収があるからといって、値上げの対象になる訳ではありません。というのも厚生年金保険料は次のようなルールに基づいて算出されるため、ぜひこの機会に確認しておきましょう。

厚生年金の保険料は給与(通勤費、残業手当を含む)と賞与それぞれに18.3%をかけて計算され、その合計額を勤務先と折半します。また、保険料を簡易に計算する上で給与は「標準報酬月額」に置き換えられます。8月まで標準報酬月額は1等級(8万8,000円)から31等級(62万円)に区分されていたのですが、9月から新たに32等級(65万円)まで上限が上がることになりました。

厚生年金保険料の上限(2020年8月まで)

厚生年金保険料の上限(2020年9月から)

値上げの対象になるのは、4月から6月まで受け取った報酬月額の平均が32等級に該当する場合です。報酬月額には残業や通勤などの諸手当が含まれます。4月に緊急事態宣言が発令された時期と重なるため免れる人もいるかもしれません。ぜひ、4月から6月まで3ヶ月分の給与をチェックしてみましょう。合計額を3で割った金額が63万5,000円以上であれば32等級へと等級が上がり、厚生年金保険料は増えることになります。

4月から6月までの給与合計(諸手当含む)≧ 190万5,000円 → 32等級へ

なお、緊急事態宣言が解除されて報酬月額が増えた場合には、年度途中でも保険料が上がるケースもありますので頭に留めておきましょう。不安な場合には、勤務先の担当部署に確認してみましょう。

値上げによる負担増は年間3万円以上、ただし税負担は減ることに

31等級から32等級に変わることで標準報酬月額は3万円増になります。厚生年金保険料は3万円に保険料率18.3%を掛けた5,490円です。これを勤務先と折半するため個人では2,745円の負担増で済みますが年間では3万2,940円の増額になります。コロナの影響で手取り給与が少なくなった家計には痛手と言えます。ただし、悪い事ばかりではありません。というのも厚生年金保険料を支払うと社会保険料控除を受けることができるからです。つまり課税対象となる収入から控除額をマイナス計上できるため税額負担は減ります。例えば年収762万円(63万5,000円×12ヶ月)で所得税率20%かつ住民税率10%の場合、実際の負担増は年間2万3,058円ということです。

3万2,940円-6,588円(所得税率20%分)-3,294円(住民税率10%)=2万3,058円

所得税は累進課税ですから、高収入になるほど所得税率は上がり、結果的に厚生年金保険料の負担増を減らすことになります。

老後にもらえる厚生年金が約50万円増えるメリットも

最後に、厚生年金保険料を多く払うことでのメリットをお伝えします。そもそも厚生年金は払った保険料が多いほど将来の年金額が増える仕組みです。いっぽうで国民年金の受給額は払った期間に応じて決まり、40年間で満額受給は約78万円と決まっていて、保険料も一律です。どちらの仕組みがいいかは判断できかねますが、長生きリスクに対して一生涯受け取ることができる年金額が増えるのは嬉しいことではないでしょうか。例えば50歳から60歳まで10年間に32等級の保険料を払うことで増える年金額を見てみましょう。標準報酬月額が3万円増えた場合の厚生年金(老齢厚生年金)受給額の計算は以下の通りに行います。

3万円 × 0.55% × 120ヶ月(10年)= 1万9,800円

1年間で1万9,800円の受給増です。少ない金額に思えるかもしれませんが、82歳(男性の平均寿命)まで生きれば負担増分の年金保険料は回収することができます。また、長生きして90歳まで受け取れば、25年間で合計49万5,000円の受給増になります。

定年前の50代にとっては、今から収入を上げることの厳しさを既に感じていることでしょう。今回の厚生年金保険料の値上げに該当する人は、値上げ網に引っかかってしまったと損した気持ちになっているかもしれません。しかし、社会保険や税金などの制度を正しく知ることで、老後の家計にプラスとなることも広い視野でみていただきたいと思います。

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