心も体も悲鳴 「リスク減らす行動を」 離職した看護師の願い

コロナ禍で普段以上に感染症対策が徹底された医療現場。県内の女性看護師は次第に疲弊していった(写真はイメージ)

 長崎県内に住む20代の女性看護師は今秋、勤めていた病院を辞めた。新型コロナウイルスの感染者を受け入れる医療機関。職場ではいつも「自分が感染するわけにはいかない」と気持ちが張り詰め、世間の目が気になって休日の外出もままならなかった。気付けば、心も体も悲鳴を上げていた。
 女性はこの春、大学を卒業し、正看護師として県内の病院に就職した。「手術室」に配属され手術に必要な機材の準備を担当。「やりがいはあった。もっと勉強もしたかった。それなのに…」
 新型コロナは、医療現場を混乱の渦に巻き込んだ。普段以上に、感染症対策が徹底された。アルコールジェルをボトルで持ち歩き、マスクは日に何度も付け替えた。帰宅後はすぐにシャワーを浴びた。県内で感染者が多発した時は職場に緊張が走った。
 職場のフロアにコロナ患者受け入れ専用の部屋が設けられた。ただ、職員に対しても患者の入退院の情報は知らされなかった。院内を気軽に歩いて回ることもできず、ストレスがたまり、たびたびトイレに閉じこもった。
 コロナについて、先輩や同僚と気軽に話せる雰囲気ではなかった。「医療従事者なのに」と後ろ指を指される気がして、外出もできない日々が続いた。
 夏ごろ、体に変調を来した。何を食べてもおいしいと感じなくなり、話す気力もなくなった。どうしてこの仕事を選んだのだろう。責任感のある職業に就いて頑張ろうと思っていた。真面目にやっていたつもりだった。自分は強いと思っていたのに…。
 頑張るのはもう限界だった。コロナがきっかけで、自分の生活を見直し、離れて暮らす家族との時間を大切にしたい。そう思った。9月ごろ、上司に退職届を出した。
 コロナ禍に伴う労働環境の変化や感染リスクなどを理由に、看護師や准看護師の離職があった病院が15%に上ったとする調査結果を日本看護協会が今月公表。約2割は差別や偏見があったとも回答した。
 感染の「第3波」が急激に拡大し、医療現場が逼迫(ひっぱく)している状況は痛いほど分かる。でも、自分はもうあの場所には戻れない、とも思う。「誰にでも感染のリスクはある。リスクを減らす行動をしてほしい。それが医療従事者の負担を軽減することにつながる」。医療現場を経験した者としての願いだ。


© 株式会社長崎新聞社